僕らはWEBデザインという業種で、「事業」を行っています。
そして、事業には「事業計画」というものが必須です。
しかし、おそらくはこれを立てられている人間は、プロの中でもごくごく僅かでしょう。
そしてこれは、同時に我々のお客様にも言える話です。
・この日までにこれだけ稼げてるはずだったのに、いつの間にか時間が過ぎて、まだ全然稼げない・・・
・フリーランスで生活するためには月50万円は稼げてなければならないのに、全然稼げず借金だけがかさんでいく。
・口座の正確な残高を把握しておらず、クレカの支払額に毎月戦々恐々としている。
当てはまる点がないでしょうか?
これらの状況は、下記のことをしっかり決めることで回避することができます。
こちらの解説をしていきましょう。
事業計画も、法人のように本格的に立てるとめちゃくちゃ面倒なので、「フリーランスが持続的に生活できるキャッシュフローを保持する」という観点から、可能な限り簡単に話をさせていただきます。
1.明確なゴール(KGI)の設定
KGIとはKey Goal Indicator(キー ゴール インジケーター)の略で、「経営目標達成指標」という意味です。
いきなり難しい言葉ですが、要は「あなたはいつまでに月いくら稼ぎたいの?」です。
WEBデザイナーは数字が苦手な人が非常に多いですが、ビジネスにおいては「数字」を扱えるようになることは必須です。
「自分が最終的に月いくら稼ぎたいのか」という問いに、あなたは答えられますか?
もし答えられなかったり、「できるだけたくさん」とか言うようでは、あなたのビジネスに対する解像度が低すぎます。
月に30万円稼ぎたいなら30万円を稼ぐ動き方というものがあり、月に100万円稼ぎたいなら、100万円稼ぐ動き方があります。
目標を最初から見据えて、それにふさわしい動き方をするべきです。
ここでは仮に、フリーランスとして安定した生活が送れるであろう最低限の収入「月収50万円」として話を進めていきましょう。
2.それをいつまでに達成するか
稼ぎたい金額が決まったら、次に「達成したい目標の期日の設定」です。
例えば、まずは本業の会社に在籍しながら副業でWEBデザインをやり、半年後に脱サラするということを決める。
本日が10月とすると、期日は来月11月から起算して、6ヶ月後の4月ということになる。
これで「来年4月までに月収50万」というのがKGIになります。
3.自分が業務に使えるリソースの把握
次に、本業をしながらWEBデザインの副業に使える時間を算出します。
例えば、平日は2~3時間。土日祝は概ね8時間くらいは使えるとする。
この時、作業時間がうまく捻出できないときは、目標達成のための断捨離をしましょう。
【断捨離例】
・時間を奪うアプリを消す
・趣味をやめる
・テレビを手放す
・食洗機、洗濯乾燥機など、時短できる家電を購入する
・朝活を始める
半年限定なら我慢できるでしょう。
僕はコロナで前職が傾いて給料が半分になった時に、趣味と休日を全て捨てました。(テレビはもとから全く見ていなかった)
僕はおたくなのでイラスト、漫画全般(読む&描く)、小説全般(読む&書く)、映画鑑賞、楽器(ベースとバンド活動)、日本酒の地酒飲み歩きなど、めちゃくちゃ多彩な趣味を持っているのですが、それらをすべて断ちました。
そしてとにかく家族を食わせるために、平日は本業の会社の立て直し、土日祝は派遣会社2社の仕事の掛け持ちをして、年間休日0日の生活を2年続けました。本業の会社が潰れてからは派遣会社の出勤を平日に拡大して、就職活動を始めた。
その中でイチのアカウントを育てる副業の事業構築を行ったため、趣味やプライベートに割く時間など皆無でした。
文字通り全てを捨てて、家計の立て直しに全力投球をしました。もう「いくら稼げればいいな」とかいう甘い話ではなかった。
「明日子供に食べさせるご飯が買えない」という、極めて厳しい現実に対して、いかに抗うかの戦いでした。
時間が足りないなら、大好きなことも捨てて下さい。
不退転の覚悟で断捨離をし、時間を捻出したら、次は自分がその事業に使えるリソースをしっかり把握すること。
毎日何時間使えるのか。週に何時間?月に何時間?
例として、平日は2時間。土日は8時間。
週:26時間
月:104時間(4週計算)
これが事業に使えるあなたのリソースとなります。
4.一人にサービスを提供するために必要なリソース
リソースが算出できたら、この時間で何人までサービスを提供できるかを考える。
WEBデザインの場合は、案件によって見積もり額が大幅に異なるのでなかなか画一的に数字を算出できないのですが、概算で計算していきます。
話を分かりやすく単純化しますが、あなたが仮にLP専門WEBデザイナーであり、あなたのサービスをLP一本に絞って計算してみます。
LP一本を作るのに、約30時間かかる。
1ヶ月のリソースは104時間。
すると、LPは1ヶ月に3本作れる計算になりますね。
KGIとして設定した「月に50万」を稼ぐためには、LP一本をいくらにするかが、自動的に算出できるでしょう。
5.商品単価✕成約数
LPは月に3本作れる。
目標の月売上50万÷LP3本=16万6千円
これが1本のLPの単価になります。
(現実にはここから諸経費が引かれるので、売上でなく利益で50万稼ぎたいなら、そこも計算に入れる必要がある)
16万という金額はLPデザインとしては妥当か安いくらいですが、経験がないうちはこの金額ではなかなか受注できないかもしれません。もしくは自分のLPをその価格で売る自信がない場合もあるでしょう。
売上=商品単価✕成約数
計画を立てるときは常にこの計算式に入れるのですが、ここで重要なのは「売上」を50万で固定し、他の2つの数値を調整すること。
50万円=LP25万円✕2本
50万円=LP10万円✕5本
50万円=LP5万円✕10本
このようにすると、最終的に稼ぐ金額が変わらなくなるので、あなたの生活に必要な金額は担保されます。
ただ、LP1枚で30時間掛かる人が、1ヶ月で10本作るためには、300時間のリソースを確保しなければなりません。
この計画は現実的ではない。
■自分が「薄利多売モデル」か「厚利少売モデル」か
人には向き不向きがあります。
LPひとつとっても、スピードが遅いけどクオリティが高い人。
逆にクオリティはそこそこだけど、制作スピードが鬼早い人。
前者は25万のLPを2本で50万の人で、後者は5万のLPを10本作って50万の人ですね。
自分がどのタイプかを考えて、「低単価でたくさん売る」のか「高単価で少数売る」のかを選択する。
今は「WEBデザイナーの事業計画」として解説していますが、これは物販や別の事業においても応用が効きます。
つまり「商品単価✕成約数」は、自分の商品の制作スピードと、確保できるリソースによって算出できる。
整体師や美容師などの対面サービス業なら、「一人の顧客対応に要する時間」が制作時間と同じになる。
自分のリソースは限られていて、生活に必要な「稼がなければならない金額」も決まっている。
となれば成約数か単価のどちらかをいじるしか無い。
これらを考えずに、「駆け出しだから3万円で」と単価を決めるから、いつまでも生活できない。
■大まかな予定を作る
いつまでに、いくら稼ぐのか。
そのために、月にいくらの商品(商品単価)をいくつ(成約数)売るのか。
これをまずは考えること。そしてこれは「段階的に目標値を増やしていくこと」です。
半年後までに月に50万稼ぎたい。
でもLPを1本作るにはどうしても30時間はかかるから、3本以上は売れない。
ただ、最初のうちは16万円で3本は取れないかもしれない。
どうするかというと、半年後までに50万なんですから、前半3ヶ月で8万を2本取れるようにする。そして月に16万を短期目標にする。
そして、後半3ヶ月で16万で3本取れるようにする。
1ヶ月目 営業開始(SNSも開始)
2ヶ月目 5万円、駄目なら無料オファーで2本
3ヶ月目 8万円で2本
4ヶ月目 10万円で3本
5ヶ月目 13万円で3本
6ヶ月目 16万円で3本
こんな感じでいけば、半年で50万は射程圏内に入ってくるでしょう。
このくらいざっくりでいいのです。とにかく最初は「大まかな予定で、半年間のゴールまでの道筋を作ること」です。
■より細分化した月次目標を立てる
完璧じゃなくてもいい。ざっくりでもいい。一度半年間の予定を立てたら、更に眼の前の1,2ヶ月の細かい予定を立てていきます。
1ヶ月目 営業開始(SNSも開始)
2ヶ月目 5万円、駄目なら無料オファーで2本
最初の2ヶ月はこちらの予定なので、1ヶ月目は「下剋上ロードマップ」の専門分野を決め、100サイト調査を完成させつつ、「SNSアカウントの準備」と、「複数のクラウドソーシングにて”待ちの営業”を仕掛けまくる」ということをしていく。
ココナラ、ランサーズ、クラウドワークス、ジョブハブ、クラウディア、シュフティ、タイムチケット、ジモティーなど。
これらのうち、一度出品すれば放置でOKの「待ちの営業」が可能であれば、まずは蜘蛛の巣のように仕掛けていきます。もちろん「◯◯専門」とした上で出すこと。
僕のコンサルメンバーは、これを行ったことで、半年後~1年後とかにマイナーなクラウドソーシングからもポロポロと案件が取れています。直近では「ジモティー」でフライヤー案件が取れました。
これらの「待ちの営業」は、しっかりと専門分野を絞った上で一度出しておけば、本当に放置していても、忘れた頃に取れるのが実証されております。
あなたを知るための入り口は広ければ広い方がいい。機会があるなら出しておきましょう。出してからは何もしなくてもいいです。(定期的なログインだけは必要)
これを「蜘蛛の巣戦略」と名付けました。ぜひ挑戦してみて下さい。「取れなくてもいいからとりあえず出しておく」という感じでいいです。単価も周りに合わせなくていい。
なぜなら「専門分野を絞ってある」ということで、あなたはその専門分野のターゲットにとって唯一無二になりうるからです。
例えば、仮に自分が「アニメコスプレ専門店」を経営していて、おたくな趣味に理解がないWEBデザイナーに頼みにくい場合、「アニメ・漫画業界専門WEBデザイナー」がいたら、多少高くてもその人に頼みたくなる気持ちは理解できるでしょう。
こういうところに「狭く深くポジションを取っていく」ことで、ライバルが不在になり、望む単価で仕事を取っていくことができます。
初月は100サイト調査、サンプルを作り、蜘蛛の巣戦略やSNSアカウントの作り込みを行い、営業開始の準備をする。
2ヶ月目から営業を開始。無料オファーでもいいし、3万~5万円取ってもいい。事業をやっている人や、知り合いに「WEBデザイナーになったので、WEB系で何か困ってる人がいたら紹介して下さい」と片っ端から声を掛けてもいい。
■常に成約率を見よ
仮に、下剋上ロードマップ上位版
https://atelierriche.com/post-372/
のメール営業戦略で取ろうと思うなら、100通とにかく送ると決める。
100通を送ると、「CVR=成約率」がわかります。100通のうち何通返事が来るのか。
そして何人と商談ができて、いくつ実際に案件が決まるのか。
仮に100通送って10通返事が来るなら、反応率は10%ですよね。
10通のうち商談に進んだのが5人なら、商談到達率が5%。
こうやって、常に「確率」を算出する。
そうすれば、「どのくらいの作業で、どのくらいの成果が出るか」が予測できるようになる。
成約率を考えずに目の前の作業ばかりをしていると、「何が問題なのか」がいつまでも明確になりません。
ここで、今度は「改善」の計算式を教えましょう。
■改善の売上計算式
売上=【客単価】×【集客数】×【成約率】
計画時は何件売ればいいかの「成約数」でよかったが、改善をするときは「集客数×成約率」で算出します。
月次の目標に到達できそうもないときは、こちらの計算式のどこが悪いのかを検証していくこと。
販売単価が悪いのか、集客数が悪いのか、成約率が悪いのか。
この原則は、どのようなビジネスにも当てはまる黄金のセオリーです。必ず頭に入れて、空で語れるようになっておいて下さい。
ひとつの事業についてまず実態を把握するために、上記のデータを整理します。(これは自社だろうが他社だろうが変わらず、他社の場合はこれがまさに”経営コンサル”となる)
売上を改善するために、どこを中心に改善していけばいいのかを考える。
これら3つのポイントごとにそれぞれ採点していきます。
例)客単価:7点 集客数:8点 成約率:2点
この例の事業では、客単価も集客も問題ないですが、成約率が低いです。
ただ、人は「もっと儲かりたい」と考えたとき、つい自分が得意な部分を更に伸ばしてしまいます。
集客が得意なら「もっと集客すればいい」と思い、今8点取れているところを、更にコストを投入して9点や10点にしようとする。
では、仮に集客数の8点を10点にした場合の売上を考えてみましょう。
客単価:7点 × 集客数:8点 × 成約率:2点 = 売上:112点
↓
客単価:7点 × 集客数:10点 × 成約率:2点 = 売上:140点
2点上げると28点の売上の増加になります。みんなこの増加で喜んでいるわけです。
頭のいいあなたはお気づきかと思いますが、この3つを俯瞰してみたときに、本当はどこを上げるべきでしょうか。
そう、一番成績が悪い「成約率」にテコ入れを行い、現在の2点を4点にしてみましょう。
客単価:7点 × 集客数:8点 × 成約率:2点 = 売上:112点
↓
客単価:7点 × 集客数:8点 × 成約率:4点 = 売上:224点
なんと売上は倍の112点アップになりました。
同じ労力をかけて2点をアップしたのに、一方では28点、もう一方では112点の売上向上になる。
このロジックを知っていれば、「得意な集客数を伸ばすのではなく、苦手な成約率を改善したほうが飛躍的な効果が見込める」ということが分かる。
苦手なところにこそテコ入れをするべき。
■具体的にどこを改善するか
【客単価】を改善するには、商品価格の見直し、より高度で高単価なバックエンド商品の開発、セット販売やアップセル、クロスセルの提案を行う。
【集客数】を改善するためには、広告施策や販路の拡大、別の市場の開拓となる。今までTwitterでしか発信してなかったものを、インスタやYou Tube、TikTokに拡げるなど。
【成約率】を改善するには、サイトのコピー、販売導線の修正、写真の取り直し、マイクロコピーやクロージングテクニックの導入など。
それぞれ有効な施策が違うので、事業を3つの要素に分割してデータを取り、「最も点数が悪い部分」に上記のテコ入れを行っていきます。
事業計画におけるこの「改善」の方法は、自分だけでなくお客様にも提案することができます。
これはもはや「経営コンサル」の領域に入ってくるため、このお話をしてあげるだけで、お客様にはめちゃくちゃ頼られ信頼されます。
なぜなら、お客様もこういった「事業計画」の立て方を知らないし、検証と改善の方程式も、ちゃんと認識できていない場合が多いからです。
■まとめ
まずは、自分の事業を行き当たりばったりではなく、半年、1年などの中長期の視点で捉えてしっかり計画を立て、数字の算出とその分析とともに改善しながら進め、その期間を最後まで完走してみること。
当然うまく行かないこともある。むしろそちらのほうが多い。それでいいです。
「計画を立て、それに沿って実行する」ということが大切で、うまくいかなければ、なぜうまく行かなかったのかをデータを元に検証し、それを元に改善案を立て、計画を補正していく。
これを数年続けていけば、徐々に計画の精度が高まっていき、計画通りにいくことが増えていきます。
その繰り返しです。
これを「PDCAサイクル」と言い、あらゆる工程に応用、適用できるフレームワークです。
計画(Plan)→実行(Do)→チェック(Check)→改善(Action)→計画・・・と回っていく。
この作業を自然に行えるようになれば、あなたは事業者として確実にステージを上げることができます。
そして、「未だ行き当たりばったりで事業をしているお客様」に対しても、非常に有益なアドバイスができるようになる。
お客様がどんな業種であれ、事業者としてやっていることは本質的に何も変わりません。
「WEBデザイナー」である以前に事業者であり、経営者であれ。
そして経営者であれば、赤字を垂れ流さず、効率よく業績を上げ、余計なコストや無駄を省き、利益をしっかり出していきましょう。